中生代
その頃はまだ東京には恐竜が歩いていて、わたしは物事に大人のやり方があるとは全然考えていなくて、想像すらしていなくて、いっとう大事にされていて、あと少し時間が流れればいつか幸せになれるのだと思い込んでいた。
今までが散々だったから、もう大変なことなんてないはずだった。やっと掴み取ったはずだったのに。
二択、天秤にかけられた場合、今までそうだったのにもかかわらず、わたしが切り捨てられる側であることを忘れていて、キラキラした時間がずっと続くと思っていた。もう大人だから、期限はなくて、くだらないことに気持ちを乱されることなくいられると、本当になにの疑いもなく思い込んでいた。
父親、マンションのエントランス、裁判
ゴルフ帰り、玄関、あの時鳴り続けていた電話、新宿駅東口の改札前、わたしがかけた電話
24時間営業、原宿、ぐちゃぐちゃになった気持ち、山手線、終電間近の南浦和行き、きっともう二度と震えないiPhone
ホームドアがついていてよかったなと思ったことが何回かある。返してもらいたかったものがあったけど、もういらなかった。自分が情けなかった。
わたし、あの日ひとりで病院へ行ってひとりで帰ったんだよ。痛かったけど、知らないふりをしてた。
わたしは人殺したことある男は普通にいやだよ。
抱えた柔らかいぬいぐるみはずっと目を閉じたままで、もう何も覚えていなくて、わたしもいろんなことが思い出せなくなっていってる。
何かを好きってだけてすべて上手くいったらよかったのに。年はとりたくないな〜。
おわり